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分類学とはどんなもの?分類学の基本的なしくみと学名・和名・英名の違いについて

分類単位とその階層

チンチラの知識を深めたくて探し集めた書籍を読んでいると、冒頭は必ずといっていいほどチンチラの分類について書かれています。

生物学上の分類とは、生物全体における位置づけを表すもので、私たちの身近なものにたとえると住所に似ています。

いきなり地名をいわれるよりも、市区町村や都道府県から教えてくれたほうがイメージがしやすいし、地図にしても、いきなり目的地周辺の拡大図を表示するよりも、縮尺を調整して広範囲に見たほうが役立つ情報が多く、理解しやすいです。

チンチラの知識を深めるためには、まずは分類学とはどんなものなのかを理解してからチンチラの分類を学ぶほうがわかりやすいと思うので、分類学の基本的なしくみについて調べたことをまとめたいと思います。

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分類学とは?

分類学とは、地球上にある多様な動物や植物の種に、学名(scientific name)をつけ、世界中で情報の整理と交流を行うためのシステムのベースとなるものです。

学名という共通のことばによって、個々の種に関して様々な学問分野で収集された情報を整理して体系化を行い、異なる国とのあいだで学問の成果を共有することができます。

一方で難しいなぁと思うのは、分類学は学名が与えられた時点で終わりではなく、時代から時代へとだんだんと変化していくことです。

時代とともに進化した研究技術によってデータが増え、個々の対象への理解が深まると、それまでの理論に合わない事実が現れ、今度はそれらの事実にもあてはまる新しい理論化が必要となります。

そうして反証される事実が生物学のさまざまな分野から集められると、学名や分類学上の位置づけに変更が生じてきます。

分類学は、時代とともに進展した研究によって収集された情報の整理とその体系化に欠かすことのできないものです。

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分類学のはじまり

15世紀に始まった大航海時代。今まで未知であった地域を訪れた人々は地図を作成しました。

海外には未知なる動物や植物が存在することを知り、ヨーロッパの商人たちは人々の生活に有用な動植物をみつけ出し、活用しようと考えます。

すべての国々で通用する商業活動のためには、新しい動植物に共通の名前が必要となりました。

カール・フォン・リンネ Alexander Roslin, Public domain, via Wikimedia Commons

カール・フォン・リンネ(Carl von Linné)

(1707~1778)

分類学の父といわれるカール・フォン・リンネが誕生したのは18世紀になってからです。

リンネは各国の情報の整理と名前の統一、生物の体系づくりを「自然の体系(Systema Naturae)」で行いました。

分類学を樹立したリンネの功績として、一般的に下記の3点が挙げられています。

種の学名の表し方として、ラテン語による2名法(binomen, binominal name)、あるいは2命名法(binominal nomenclature)を採用したこと。

それぞれの生物の特徴を記述して、それと類似する生物とのちがいを明らかにしたこと。

種以外の分類階級を設け、それらを階層的な関係として位置づけたこと。

国際動物命名規約

生物(個体)には種々の生物学的特徴によって同類として識別できる集団があり、これを種(Species)といい、リンネは分類学の基本単位としました。

種の学名の表し方として、ラテン語による2名法(binomen, binominal name)、あるいは2命名法(binominal nomenclature)を採用したのですが、命名の方法や先取権などのルールを示さなかったため、その後混乱が起こります。

同物異名や異物同名、学名だけを与えてそれを記載しないもの、模式標本という学名を担う標本の指定がなかったり、記載と模式標本との関係が不明などなど、さまざまな混乱が生じてきました。

当時、ヨーロッパの列強はアジア・アフリカ・新大陸に続々と進出し、いろいろな動植物をもち帰ったので、混乱はとても大きかったといいます。

この混乱をなくすために動物学者の規約をつくろうという動きが起こり、イギリスのストリィクランドは1842年にダーウィン、ヘンスロー、およびオーエンなどを含めた12人とともに、動物の命名に関する委員会を組織しました。

1843年に『動物の命名法に関する規約』(Strickland et al., 1843)を発行したのですが、この規約のほとんどの文章が「べきだ(should)」「ほうがよい(may)」で書かれていて強制力をもたなかったので、それほどの効果をもたらしませんでした。

その後も1800年代の後半まで、ストリィクランドの規約の改訂を含めて、8つの規約の作成がアメリカ、イギリス、フランス、およびドイツでそれぞれ続き、1895~1905年まで全動物の国際規約に関する委員会を設立し、ついに1905年に『国際動物会議で採用された国際動物命名規約』(International Code of Zoological Nomenclature、ICZN)が完成しました。

初版は1927 年まで改訂が行われ、日本語訳は1906年、1911年、1930年に出版されました。

2022年4月現在の最新版は1999年に出版された『国際動物命名規約第4版』で、動物命名法国際審議会(International Commission on Zoological Nomenclature、ICZN)によって今日までに3度の改正が行われています。

現在、動物学者は自分の研究した動物の学名を『国際動物命名規約』にしたがって記載しなければなりません。

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分類階級と階層的な関係

リンネは、分類学の基本単位である種の他に分類階級(taxonomic category)を設け、それらを階層的な関係として位置づけました。

当初リンネがつくったのは、綱、目、属および種でしたが、いろいろなレベルの分類階級があり、それらを分類単位(taxon、複数はtaxa)といいます。

分類階級の中で、綱が目を含み、目が科を含むというような関係を階層(hierarchy)といい、上の階層ほど多くの動物種を含みます。

共通する性質は上の階層にいくほど少なく普遍的なものになり、逆に下にいくほど多く個別的な性質になります。

現在、分類の単位とその階層は下記の図のように表されます。

分類の単位とその階層

分類の単位とその階層は、Nathan S.Upham et al.(February 1, 2022)の『Mammal Diversity Database(Ver.1.8)』の分類データ一覧に掲載されている分類単位と、『哺乳類の生物学① 分類(新装版)』(金子之史 著 / 2020)を参考に作成しています。

この中で、科階級群の名称には語尾として、上科には-oidea、科には-idae、亜科には-inae、族には-iniをつけるという決まりがあります。

このように、分類階級が設けられていることで、たとえばある動物種について説明したいときに、上位の分類群の知識をもつ人に話すのであれば、いきなり動物名をいうよりも、「☆☆目の♢♢」といったほうが、その動物のおおよその特徴が☆☆目からわかり、おおまかながらもイメージが得られます。

また、同じ分類群によく知られている動物がいれば、その動物から生物学的な特徴のヒントを得ることもできます。

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種の学名

種の学名(種名 species name, name of species)は、属名(generic name, genus name)と種小名(specific name)のラテン語による2名法で表します。

種をさらに細分した下位となる亜種名(subspecies name)では、種名の下に亜種小名(subspecific name)をつけて3語で表します(3名法)。

たとえば、屋久島産のニホンザルであれば、Macaca fuscata yakui と表され、fuscata は種小名でyakui が亜種小名です。

2名法や3名法で表した種および亜種の学名は、一般的に斜字体(イタリック体)が用いられ、他の文章と区別されます。

また、学名の後ろにその命名者の名前と出版の年号が記されていることがあるのですが、分類学の論文でない場合は省略できるので、両方ともあるいは年号のみが省略されていることもあります。

命名者名と年号がカッコで囲まれている場合には、種の学名が変更になった経緯があることを表しています。

たとえば、イエネコの種の学名は現在 Felis catus Linnaeus,1758 ですが、ヒョウの種の学名は Panthera pardus(Linnaeus, 1758)と表されます。

これは、はじめリンネはどちらにも同じ属名 Felis を与えたのですが、その後1930年にヒョウの属名が Panthera に変更されたことで種の学名が変更になったからです。

学名と和名・英名の違い

種の学名と慣用的に用いられる和名や英名では、どのように違うのでしょうか?

和名というと、日本哺乳類学会から出版されている『世界標準和名目録』では種の学名に沿った標準和名が記載されていますが、これは他の和名を使用することを制限するものではなくて、日本哺乳類学会によって推奨されているものです。

和名は国際的には通用しない不都合さをもち、種を特定せずに総称として用いられている場合も多くあります。

英名も同じで、慣用的に呼ばれている一般名も正式な規約はなく、一つの英名が複数の種を指している場合や、国や地域によって呼び方が異なる場合もあるなど、曖昧さがあり混乱が生じる可能性があります。

しかし、学名は『国際動物命名規約』という正式な規約にもとづいているので、共通のことばとして世界中のどこででも通じ、何について述べているのかが明確にわかり、曖昧さはありません。

また、学名には模式標本が設定されているので、混乱が生じたときには解決のための規約も用意されています。

さらに、和名や英名では、表された名前が種の分類階級なのか亜種なのかを区別することはできませんが、学名では種の学名は2名法、亜種名は3名法で表されているので一目でわかります。

生物の命名法におけるシノニムとは何?

学名を調べていると、シノニム(synonym)という言葉をよく目にするのですが、これは何なのでしょうか?

生物の命名法において、シノニム(synonym)とは一般的に「正式な学名ではない」という意味を含んで使われる場合が多いようですが、日本語に訳すと「異名」という意味で、同一と見なされる分類群(種や属など)に付けられた学名が複数ある場合に、それらをシノニムといいます。

先に、学名は時代とともに変化するとお話しましたが、『国際動物命名規約』の規約に則って、有効な学名はどの時代においても1つのみ です。

そのため、例えば分類体系の見直しによって属名が変更されたことにより種の学名が変更された場合は、一方は異タイプ異名(heterotypic synonym)となり、あるいは、新種として記載されたものが後になって既に設定されている模式標本から再命名されたものだとわかった場合には、年号の早いほうが先取権(priority)をもつので、後からつけられた名は新参異名(junior synonym)となり正式な学名ではなくなります。

なお、『国際動物命名規約』では、先取権と原記載の原綴りを尊重することになっていますが、長いあいだ慣用的に用いられてきた学名がある場合や、公表された新種・新亜種などのもとの綴りについて誤りがあるなど混乱が生じた場合には、解決するためのしくみがあり、委員会に申し出ることで調停が行われます。

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さいごに

最後までお読み頂きありがとうございます。

チンチラの分類についてまとめる前に、まずは分類学の基本的なしくみから始めさせて頂きました。

チンチラについて調べているときに冒頭に書かれた分類の説明を読んでも、普段は深く立ちどまることなく読み進めていたのですが、いざ分類学について調べ始めてみると、奥が深くてなるほど~と思うことが沢山ありました。

どうして調べれば調べるほどに違う内容ばかり表れるんだろう?と悩んだこともあったのですが、分類学は時代によって変化し続けているのだから、どの時点の情報をもとに書かれているのかをチェックしながら進まないといけないんだなと思いました。

分類学の基本的なしくみについて理解できたので、次回は実際にチンチラの学名や分類についてみていきたいと思います。

チンチラの仲間にはどんな種がいる?チンチラの分類とチンチラ属の2種の正式な学名について

〖 この記事では下記の文献を参考にさせて頂きました 〗

「哺乳類の生物学① 分類(新装版)」(金子之史 著 / 一般財団法人東京大学出版会 発行 / 2020.1)

「国際動物命名規約第4版 日本語版(追補)」(動物命名法国際審議会 著 / 日本分類学会連合 発行 / 2005)

「Mammal Diversity Database (Ver.1.8)」(Nathan S. Upham , Connor Burgin, Jane Widness, Schuyler Liphardt, Camila Parker, Madeleine Becker, Ingrid Rochon, Oavid Huckaby 著 / American Society of Mammalogists 発行 / 1 Feb,2022)

https://doi.org/10.5281/zenodo.5945626

「世界哺乳類標準和名リスト 2021年度版」(川田伸一郎・岩佐真宏・福井 大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽 創・姉崎智子・鈴木 聡・押田龍夫・横畑泰志 著 / 日本哺乳類学会 発行 / 2021)

https://www.mammalogy.jp/list/index.html