イネ科牧草とマメ科牧草の根っこのお話
この2つの写真は、「イネ科」牧草のチモシーと「マメ科」牧草のアルファルファの根の写真です。
とっても異なるこの2つの写真は、「イネ科」牧草と「マメ科」牧草で大きく異なる特徴で、
以前図書館で借りた「酪総研選書No.58 自給飼料シリーズ No.3 目で見る牧草と草地」(1999年5月 酪農総合研究所発行)に書かれていた内容です。
現在は、最新版の「酪総研選書No.91 目で見る牧草と草地」(2011年3月 デーリィマン社発行)が発行されていて、そちらにも根の違いについて書かれています。
牧草の栄養成分についても詳しく知りたいけれど、栽培している側じゃないとわからないような「植物」としての特徴を知るのもとっても興味深くて楽しいな~と思いまして、今日はイネ科牧草とマメ科牧草の根っこの違いについて紹介したいなぁと思います。
※なお、この記事で紹介している画像は、デーリィマン社さまに当ブログでの使用の許可を頂いて引用させていただいております。
豊富な根を持つイネ科牧草
採草地では、1年に数回刈り取りが行われていて、1年で最初に行われる刈り取りで収穫したものを「1番刈り」、続いて「2番刈り」・・・と呼ばれています。
イタリアンライグラスのような短年草もありますが、牧草の多くは多年草で、1度種が撒かれると数年にわたって繰り返し刈り取りが行われます。
実は、私自身が牧草の多くが多年草だということを知らなくて、種が撒かれて一番最初に収穫するものを「1番刈り」と呼び、毎年種まきから始まるんだと勘違いをしていました。
正しくは、越冬して翌春に一斉に芽吹き、穂ばらみの時期から出穂期までの間に最初の刈り取りが行われ、新しい葉が出て再生し・・と繰り返しています。
次々と入れ替わるイネ科牧草の根
刈り取られた直後、再生の原動力となる貯蔵養分は茎葉基部に「貯蔵炭水化物」として蓄積されていて、再生初期の数日間、新茎葉の再生過程で有効利用されます。
そうしている間に地下では何がおこっているのかというと、利用前までにあった茎につながっている根の多くは役割を終えて、新しく再生する茎葉が養分を吸収するための新しい根が生えはじめます。
刈り取りが行われる度に、次々と牧草の根が入れ替わり、地下では養分吸収を活発におこなう現役の根と、刈り取られたことで役割を終え死んだ根が共に土の中に残っているので、写真のように根の割合が多くなります。
土の中に細かなすき間をたくさん作る団粒構造
次々と根が入れ替わり、生きた根と死んだ根が土の中に備わっていると、さぞかし窮屈になってしまうのでは?と思ったら、根の周りには「団粒」と呼ばれる土のかたまりがたくさん出来て、土に細かなすき間をたくさんつくってくれるのだそうです。
「団粒」と呼ばれる土のかたまりは、根やそれから出てくる物質などが接着剤として働き、土の細かい粒を少しずつくっつけてかたまりにしていったもので、
土の細かな粒がただ単純に並んだだけの単粒構造の状態とくらべて、土の中の水や空気のたまり場として活躍してくれ、根を張りやすくしてくれています。
土に有機物を蓄えてくれるイネ科牧草の根
刈り取られたことで、新しい茎葉の成長を支えるための新しい根が生まれ、役割を終えて死んだ根は、牧草栽培を続けていくうちに土の中で、徐々に徐々に分解されていきます。
そうして、有機物となって自然に土にたまっていき、土の作物生産力を高めるという新たな役割を担ってくれています。
マメ科牧草の深い根張り
では、マメ科牧草の根はどうなっているのでしょうか?
マメ科牧草の代表格、アルファルファ。
ペットショップで販売されているアルファルファには、チモシーのように「1番刈り」「2番刈り」と書かれているものはほとんど見かけませんが、アルファルファもチモシーと同じ多年草で、1年に数回刈り取りが行われています。
北海道の刈り取りの事例によると、6月中旬の着蕾期(花のつぼみができる時期)に1番草を刈り取り、その後、7月下旬(開花が全体の半分程度認められる時期)と、9月中旬の3回刈り取りが行われているそうです。
さきほど、イネ科牧草は再生と共に新しい根に入れ替わるというお話をしましたが、アルファルファはどうなっているのかというと、イネ科牧草の根っことは全く異なり、太くて大きな根です。
イネ科牧草は、再生の原動力となる貯蔵養分を茎葉基部に「貯蔵炭水化物」として蓄積しているのに対して、アルファルファの場合は、根や刈り株に蓄えています。
アルファルファの再生は、刈り株部(根冠部)に新しい茎を分枝し、それが生育していくことで成立しています。
新しい茎が葉を広げて自分で光合成を行い、独立して栄養を摂るまでの間、この新しい茎の再生は根や刈り株に蓄積されていた貯蔵養分を利用して行われるので、十分に貯蔵養分を根や刈り株部に蓄積しておく必要があり、太く大きな根を土の深いところまでおろし、貯蔵養分を蓄えてくれています。
土の深いところまで根をおろしてくれることで、雨が少なくて土に水分が多少不足しても土壌の深い所まで養水分を吸収することができ、干ばつ被害を受けにくいだけでなく、土を軟らかくもしてくれます。
マメ科牧草の深い根張りが、土を耕す。
このような特徴も、アルファルファが「牧草の女王」と呼ばれるのにふさわしい理由の1つです。
マメ科牧草と根粒菌の助け合い
上の写真は、同じくマメ科牧草のラジノクローバの根です。
根の表面に見えるこぶ状のものは、「根粒」と呼ばれ、マメ科牧草の根に、「根粒菌」と呼ばれるバクテリアがとりついて、急速に増えてできたものです。
この根粒菌は、マメ科牧草だけではなく一般に、マメ科植物にはいずれの根にもとりつくもので、
マメ科牧草から炭水化物やミネラルをもらうかわりに、空気中の窒素ガスをマメ科植物が吸収できる形に変化させ、養分としてお返ししています。
マメ科牧草と根粒菌は、お互いに助け合って共に生きる「共生」の関係を結んでいます。
空気中の窒素を養分に変化させる根粒菌の特殊な能力
空気中の窒素ガスは非常に安定した物質で、一般的には植物や動物がそれらを直接利用することはできません。
ところが、根粒菌と共生しているマメ科牧草は、根粒菌の窒素固定という作用のおかげで空気中の窒素を利用できています。
根粒菌は、安定した空気中の窒素ガスを、植物の養分として重要なアンモニアの形に変化させるという特殊な能力があって、このことを窒素固定といい、その変化させたアンモニアをマメ科植物が利用しています。
マメ科植物が空気中の窒素ガスを直接利用しているのではなく、根粒菌がいてくれるからこそ叶うことで、素晴らしい共生関係だと思います。
土を肥やしてくれるマメ科牧草
イネ科牧草では、牧草栽培を続けていくうちに入れ替わる豊富な根が、徐々に分解されて有機物となり、作物の生産量を増やすための働きをしてくれていると、イネ科牧草のお話で書きました。
マメ科牧草の栽培も、土の作物生産力を高める働きを担ってくれています。
空気中の窒素を取り込んだマメ科牧草の根や刈り株の一部が枯れると、土の中で徐々に分解されて植物が吸収可能な窒素へと変化していきます。
こうして、土の中で作物の養分源、とくに窒素源となっていきます。
マメ科牧草の代表格、アルファルファの和名は「紫馬肥(むらさきうまごやし)」といいます。
和名からすると、「馬でも肥えさせるほどの栄養がたっぷりなのね?」と想像していましたが、「土をも肥やす」とは知りませんでした。
「アルファルファ」という名前はアラビア語からきたもので、「良質の飼料」という意味で、一方で、「すべての食べ物の父」の意味という古代アラビア人の正直な気持ちを表わしたものなのだそうです。
一方、「ルーサン」という呼び名は、北部イタリアの渓谷の名に由来していて、ヨーロッパ諸国で呼ばれるようになりました。
中国では、苜蓿、そして学名は「メディカゴ・サティバ(Medicago sativa L.)」「栽培される医薬」という意味なのだそうです。
イネ科牧草とマメ科牧草の根のお話を振り返って
今回、イネ科牧草とマメ科牧草の根の違いを知って、普段ティモに与えている牧草たちを手に取りながら、どんな風に栽培されていたのかな~とか、根は豊富な子だったのかなぁ~とか、色んなことを想像するようになりました。
今度は、「栄養面」から比較してみたいと思っていますが、アルファルファが与えすぎに注意といわれる所以は、根粒菌のおかげで栄養を豊富に含んでいるからもあるんだろうな~と思います。
こうして知ることができたのも、「目で見る牧草と草地」を読んだことがきっかけです。
そして、こんな風に紹介できたのは、写真の使用にご協力下さった出版社のデーリィマン社さま、酪農総合研究所さまのおかげであります。
心から感謝申し上げます。
「目で見る牧草と草地」 |
酪農総合研究所発行 1999年5月 デーリィマン社発行(最新版)2011年3月 |
「草づくり - 理論と実際」 |
酪農学園大学 教授 松中照夫 著 「酪農ジャーナル」(酪農学園大学発行 連載2009年4月-2012年3月) |
「アルファルファについて12の質問」 |
酪農学園大学 名誉教授 原田勇 著 「牧草と園芸」(雪印種苗発行 2000年10月) |