常生歯のチンチラのために、ほぐれやすく牧草繊維の粒子が大きなソフトペレットを選ぼう
ハードペレットが切歯の伸びすぎを防ぎます。
という説明を受けたことはないですか?
私は何度も聞いたことがあって、自分自身もそうなんだ~と思っていたのですが、生涯伸び続ける常生歯のチンチラの歯根には歯を伸ばすための細菌が存在していて、硬いペレットが原因で歯根を痛めてしまう場合もあると知りました。
本当は、歯と歯をこすり合わせて摩耗しないと不正咬合を予防することにつながらないので、硬いハードペレットではなく、ほぐれやすく柔らかいソフトペレットで、かつ、ほぐした後に粗い牧草繊維が豊富に残っていて、歯と歯をこすり合わせてすり潰して食べる必要があるタイプが理想的です。
2016年6月に株式会社EIC主催で行われた「ラビットフードについて」の飼い主さんセミナーで学んだことや、獣医学書を参考に、常生歯のチンチラの歯のしくみや、歯の摩耗を促す理想的なペレットについて学んだことをまとめてみました。
ハードペレットとソフトペレットの違い
チンチラ用ペレットとして販売されているものには、「ハードペレット」と「ソフトペレット」の2種類があります。
「ソフトペレット」の場合はほとんどパッケージに書かれているのでわかると思いますが、「ハードペレット」はわざわざパッケージに書かれていない場合が多いのでわかりにくいかもしれません。
上の写真の左側のように、ガチッと固められていているものは「ハードペレット」で、販売されているペレットの多くはこのタイプです。
この「ハードペレット」と「ソフトペレット」は何が異なるのかというと、作り方が異なるため、硬度、栄養の変性、劣化のスピードが異なります。
ハードペレットは、牧草ミールなどの原材料を熱をかけずにギュッと固めてつくるのに対して、ソフトペレットは熱をかけてつくります。
そのため、ハードペレットは硬く、ソフトペレットは発泡性といって細かい空気が入ってやわらかくなり、カリッとした食感になります。
栄養面でいうと、ハードペレットは熱をかけていないのでビタミンなどの栄養素の変性が少ないですが、ソフトペレットは熱をかける分ビタミンなどの栄養素が変性してしまうという欠点があります。
一方で劣化のスピードで比較すると、ハードペレットは原材料をギュッと固めただけなので劣化しやすく、ソフトペレットはハードペレットよりは劣化が少ないという特徴もあります。
どちらにも、メリット・デメリットがあるわけですが、歯に与える影響を考えたらソフトペレットの方がチンチラにとって理想的といえます。
どうしてハードペレットはオススメしにくいのかということを説明したいと思います。
チンチラの歯について
STOP! チンチラにおやつをあげる前に想像してみてくださいの記事の中で、チンチラはウサギやモルモットと同じく、生涯にわたり歯が伸び続ける「常生歯」の動物だと説明しました。
繰り返しになる部分もありますが、チンチラの歯のことはとっても大切なので、もうちょっと詳しく説明します。
このイラストは、1999年7月に株式会社ファームプレスより発行された「げっ歯類とウサギの臨床歯科学」(David A.Crossley , 奥田綾子 共著)、をお手本に、イヌ・ネコ・人と、チンチラ・ウサギ・モルモットの歯の違いを描いたイメージです。
チンチラには、切歯が上下に2本ずつ、臼歯が上下左右に4本ずつ、計20本の歯があって、全て生涯にわたり歯が伸び続ける常生歯です。
歯が伸び続けるということは、歯を伸ばす細胞が歯根に存在しているということです。
なので、歯が伸びることがないイヌやネコ・私たち人間とでは、歯根の長さや内部構造が全く違います。
私たち人間の歯根根尖(先っぽ)は閉鎖されていますが、チンチラやウサギ・モルモットなど常生歯の動物の歯根根尖はパカッと開いていて、歯を伸ばすための細胞が棲んでいます。
そのため、私たち人間の歯根と比べると、とても長くて深い歯根をしています。
私は、2016年6月に株式会社EIC主催で行われた「ラビットフードについて」の飼い主さんセミナーでこの内容を学んだのですが、講師の霍野晋吉先生(エキゾチックペットクリニック院長)によると、歯冠は覗き込めば確認できるけれど、歯根はレントゲン撮影しないと確認できず、歯根に異常があったり細胞が死滅してしまっているケースもあるというお話がありました。
健康診断に訪れた際には、お腹のレントゲンと併せて歯のレントゲンも撮影していただく方がよいと思います。
チンチラの歯根は眼窩底や下顎骨下縁のギリギリの位置まで到達している
では、チンチラの長くて深い歯根がどのようになっているのかというのを描いたのが、下記のイラストです。
このイメージ図を見ていただくと、チンチラの歯根がいかに長くて深いのかがわかると思います。
上顎臼歯の歯根根尖(先っぽ)は眼窩底スレスレ、下顎臼歯の歯根根尖は下顎骨の下縁ギリギリにまで達しています。
正常な状態でこのように上下ともにスレスレ、ギリギリなわけですから、そこに硬いものを垂直に噛んで歯根を押す力が加わったり、例えばケージの金網の桟を齧るなどの癖があったりして変な方向に力が入って曲がってしまったり、咀嚼回数が少なく歯冠が伸びることで歯根も伸びてしまったりすると、どうなるのでしょう・・。
「歯の伸びすぎ」と聞くと、歯冠が口腔内で伸びているイメージが強いですが、本当は上にも下にも両方に伸びてしまうので、歯根根尖が上顎歯は眼窩内に突出、下顎歯は下顎体下縁に突出という事態も起こります。
治すことはできるのでしょうか・・・? 治療法はないこともないとは思いますが、食欲不振、接食困難、精神的ストレス、体力の消耗など色んな症候も加わって、かなり難しいのではないかと思います。
ハードペレットを食べても歯の伸びすぎを防ぐことにはなりません
では、どうしたらよいの?といったら、日頃の食生活に気を配り、歯の摩耗を促す食材を与える習慣をつけるのが一番よいと思います。
歯の伸びすぎ、不正咬合を予防するためには、日頃からいっぱい咀嚼して歯でよくすり潰してから飲み込む食事をとることです。
すり潰すためには、上下の歯を垂直に動かすのではなく、水平に前後に動かしたり左右に動かしたりして、歯と歯をこすり合わせないといけません。
それが歯を摩耗することになり、結果、歯の伸びすぎ、不正咬合を予防することにつながります。
しかし、ハードペレットは噛み砕くために垂直方向に力が必要ですが、歯と歯を水平方向にこすり合わせるわけではないので、歯の伸びすぎを防ぐことにはなりません。
むしろ、上下に歯がぶつかり歯根に影響を及ぼしたり、歯を湾曲させる原因になってしまうこともあります。
私は、チンチラやウサギ、モルモットなど常生歯の動物は齧るのが大好きなので、歯も頑丈で丈夫なんだと思っていましたが、本当はイヌやネコ、人間の方がよっぽど丈夫で、チンチラの歯はとってもデリケートなんだと知りました。
ティモが大好きなかじり木も、「カワイ がじがじフェンス」や「カワイ りんごバー」のように樹皮を引っ張ったりして齧るタイプのものは与えていますが、厚みのある木材でできているおもちゃは歯根に負担がかかるんじゃないかと思って与えていません。
チンチラの歯根に負担をかけず歯の摩耗を促す効果もあるペレット選び
歯の摩耗を促す最もよい食材は「牧草」です。
牧草は繊維が豊富なので、よく咀嚼して、歯と歯をこすり合わせてすり潰さないと飲み込むことができません。
特に茎の部分は繊維が粗く、より念入りに、回数を増やして、十分に歯と歯とこすり合わせないと飲み込むことができないので、歯の摩耗を促し、歯の伸びすぎ、不正咬合を予防するのに最も適しています。
ペレットには牧草ほど歯の摩耗を促す効果はありませんが、噛んだときにほぐれやすいソフトペレットで、ほぐれた後にはすぐに飲みこめるのではなくて、歯と歯をこすり合わせてすり潰さないと飲み込めない粗い繊維が豊富に含まれているタイプを選ぶのがよいと思います。
『イースター チンチラセレクションプロ』『GEX チンチラプレミアムフード』『Mazuri チンチラダイエット』の3種類で検証
では実際にペレットをほぐしてみた状態がどのようになっているのか見てみたいと思います。
用意したのは、「イースター チンチラセレクションプロ グルテンフリー」、「GEX チンチラプレミアムフード シンバイオティクスブレンド」、「Mazuri チンチラダイエット(SBSコーポレーションさんでオリジナルにガス充填のアルミチャック袋に計量パックされたもの)」の3種類です。
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【保証成分】たんぱく質:16.5%以上 脂質:2.5%以上 粗繊維:23.0%以下 灰分:10.0%以下 水分:10.0%以下 カルシウム:0.8%以上 リン:0.4%以上 総エネルギー:390kcal以上/100g 【内容量】600g(200g×3袋) |
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さて、この3種類のペレット。「イースター チンチラセレクションプロ グルテンフリー」と、「GEX チンチラプレミアムフード シンバイオティクスブレンド」はソフトペレットですが、「Mazuri チンチラダイエット」はハードペレットです。
写真を見てもわかるように、ソフトペレットの「イースター チンチラセレクションプロ」や「GEX チンチラプレミアムフード」は表面がざらざらしていてマットな質感ですが、ハードペレットの「Mazuri」は表面がコーティングされたようにツルッとしていて、光沢があります。
粗い牧草繊維は、「イースター チンチラセレクションプロ」には沢山含まれているのがわかりますが、「GEX チンチラプレミアムフード」では粗い牧草繊維の大きさが小さくなり、「Mazuri チンチラダイエット」では粗い牧草繊維というより穀物の殻のように見えます。
続いて、すり鉢ですり潰してみました。
ハードペレットの「Mazuri チンチラダイエット」を自分で噛んでみたときにはさほど硬いと感じませんでしたが、すりこぎで実際に潰そうとすると、ハードペレットの「Mazuri チンチラダイエット」はかなり力を入れないと潰れません。
潰れやすさの順でいうと、「GEX チンチラプレミアムフード」が一番簡単に潰れ、続いて、「イースター チンチラセレクションプロ」、「Mazuri チンチラダイエット」の順でした。
すり潰してみると、特徴が明らかというか、全然違うのでびっくりしました。
「イースター チンチラセレクションプロ」は、繊維粒子が沢山ありますが、「GEX チンチラプレミアムフード」は繊維粒子よりパウダーみたいな粉が多く見えます。「Mazuri チンチラダイエット」は繊維なのか、殻なのか、穀物なのか・・よくわかりません。
3種類を検証した結果、チンチラの歯に最も理想的なペレットは「イースター チンチラセレクションプロ」
「イースター チンチラセレクションプロ グルテンフリー」、「GEX チンチラプレミアムフード シンバイオティクスブレンド」、「Mazuri チンチラダイエット(SBSコーポレーションさんでオリジナルにガス充填のアルミチャック袋に計量パックされたもの)」の3種類を検証してみて、
ほぐれやすさ | |
ほぐれた後に牧草繊維の粒子が大きいままの状態で残っているか |
という2つの検証内容のうち、ほぐれやすさではソフトペレットの「GEX チンチラプレミアムフード シンバイオティクスブレンド」と「イースター チンチラセレクションプロ グルテンフリー」のどちらもよかったですが、
さらに、牧草繊維の粒子の大きさの条件も加わると、比較した3種類の中では「イースター チンチラセレクションプロ グルテンフリー」が、一番牧草繊維が大きなまま豊富に残されていて理想的だと思います。
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【保証成分】たんぱく質:16.5%以上 脂質:2.5%以上 粗繊維:23.0%以下 灰分:10.0%以下 水分:10.0%以下 カルシウム:0.8%以上 リン:0.4%以上 総エネルギー:390kcal以上/100g 【内容量】600g(200g×3袋) 【原材料】】チモシーミール、アルファルファミール、えん麦、脱脂大豆、タピオカ澱粉、乾燥おから、ビール酵母、緑茶粉末、たんぽぽ粉末、おおばこ粉末、植物抽出発酵エキス、アガリクス(β‐グルカン源)、乾燥カモミール、オリゴ糖、殺菌処理乳酸菌、ミネラル類(食塩、第二リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、ヨウ素酸カルシウム)、アミノ酸類(DL-メチオニン)、ビタミン類(コリン、C、E、ナイアシン、パントテン酸、イノシトール、B2、B1、B6、葉酸、A、K、B12、ビオチン、D3)、酵素(アミラーゼ)、甘味料(ステビア) |
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繊維性成分が大きなまま残っているペレットを選ぶことは歯だけでなく消化器官にとっても大切です
歯の伸びすぎ・不正咬合を予防する観点から、「ハードペレット」と「ソフトペレット」を比較検証してきましたが、消化器官の観点からも繊維粒子の大きさが重要だという記述を見つけました。
2008年2月に株式会社ファームプレスより発行された「ラビットメディスン」(Frances Harcourt-Brown 著 / 霍野晋吉 監訳)の中で、
ハードペレットに含まれる成分粒子の大きさは大切である(Lang,1981)。小さい粒子は盲腸内にとどまる傾向があり、腸炎の発生率を増加させる(Sanchez et al.,1984)。
繊維を粉砕する度合によって近位結腸での消化過程が変わるので、繊維の大きさは重要な問題である。繊維を結腸ではなく盲腸に流れ込むように細かく粉砕すると、不消化性の繊維が腸の運動に与える好ましい影響を損なってしまう。したがって一般には、完全なペレットを作る際のフィルターサイズは 2mm でなければならないと考えられている。1mmのフィルターサイズでは消化器障害を引き起こす(Lowe,1998)。
という記述がありました。
ウサギの回腸末端部には正円小嚢とよばれる独自の部分があって、消化・発酵を行う高消化性繊維と不消化性繊維を分離しているので、チンチラとは消化の仕組みが異なるのですが、盲腸内の腸内微生物によって繊維質の消化・発酵を行う「後腸発酵動物」という点は同じなので、チンチラにもあてはまる点があるはずです。
植物の繊維性成分は、盲腸内で微生物による消化・発酵が行われる高消化性繊維と、胃腸の蠕動運動を刺激してうんちとなって排出される低消化性繊維の2種類に分かれるのですが、ウサギの場合その2つはどのように選別されているのかというと繊維粒子の大きさだと書かれています。
ということは、本来は消化されず速やかにうんちとして排泄されるべき低消化性繊維であっても、細かく粉砕して小さな粒子の状態で与えられてしまうと、消化・発酵できるものだと判断されて盲腸へと運ばれしまい、消化・発酵をおこなっている腸内細菌叢の負担を増加させることになり、腸炎の発生原因になり得るということです。
このことからも、ペレットには繊維性成分が大きなまま含まれているほうが理想的だということがわかります。
今回調べたことを振り返って・・
チンチラ用ペレットについて、おすすめなのは「ハードペレット」と「ソフトペレット」のどちらなのかに的を絞って、比較してみました。
今回色々と調べていて感じたことは、見たり聞いたりしたことをそのまま理解しないで、自分で調べてみることが大切だということです。
本を調べてみて知りたかったことが記載されているのを見つけたら、他の本にはどのように書かれているんだろう?とプラスして調べてみたり、質問して教えてもらったことがあったら、そのように書かれている本を探してみたり。。
そうやって1つ1つ積み重ねていくと、「なるほど~」と思える場面に沢山遭遇するので、これからもコツコツ積み重ねていきたいなって思います。
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