STOP! チンチラにおやつをあげる前に想像してみてください
この写真は、南米のボリビア西部 アンデス山脈に囲まれた標高3,700メートルの、野生のチンチラがかつて生息していたサボテンとカルドネスが自生するチンチラの故郷です。
チンチラの故郷は寒冷気候で降水量が極めて少ないため、栄養が豊富な植物は少なく、チンチラは、栄養が乏しい繊維質の食餌だけでも生存できる動物として進化してきました。
おやつをどのくらい与えるかの判断は、飼い主である自分にかかっています
この頃SNSで頻繁に、「おやつを沢山買いました!」という内容を目にします。
沢山のおやつと一緒に写っているチンチラちゃん達は、みんなかわいらしい若い子ばかりです。
皆、お店で、「チンチラは本来どのような内容の食餌をしている動物なのか」、「チンチラの体のしくみ」、「おやつを与えることで起こる可能性が高まるリスク」について説明してもらえていないのでしょうか?
考えてみたらお店も商売なので、目的は「商品を売って利益を得ること」です。
商品の購入を検討しているお客さんに対して、商品のよさ、メリットについてはすすんで説明をしても、商品のデメリットについてはすすんで説明しないというのは、そりゃぁ、そうだというか、当たり前です。
「購入したおやつをどの程度与えるか」の判断は、全て飼い主である自分にかかっています。
お店側も、決して「沢山与えてくださいね。」とはすすめていないのですから、全て飼い主である自分の責任です。
おやつは滅多に出会うことのできない宝石のようなもの
ブックマークしておかなかったので、どちらで拝見した記事か紹介できないのですが、ある動物病院のサイトだったかと思うのですが、
おやつは滅多にお目にかかれない宝石のようなものだ。
と書かれている記事がありました。
私はその記事を読んで、「あぁ、説得力のある、わかりやすい記事だな~」と思いました。
野生の生活下では、栄養の乏しい繊維質を多く含む食事しかしていないわけですから、そこに天から降り立つように「味わったこともないようなおいしい食べ物」を与えられたら、間違いなく喜んで食べます。
それは生きるために貴重な栄養源になるし、今、食べなかったら今後いつ食べられるかわからない、幻のように珍しくて貴重なものだからです。
また食べることができるチャンスが訪れたら、その時も必ず口にするでしょう。
自らの意思で「拒む」ことはできないのです。
だからこそ、飼い主の意志が必要です。
チンチラは本来、牧草よりも硬く咀嚼回数が多く必要な低エネルギーの繊維質を食べている完全な草食動物です
野生のチンチラの棲む故郷を想像してみましょう。
チンチラの故郷は、南米のペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンにまたがるアンデス山脈の西の山麓領域で、標高が3000~5000mと高く、寒く乾燥した山岳地帯です。
降水量が極めて少なく、湿度が0%になることもある環境のため、生育している植物の多くは、硬い繊維性の植物です。
エネルギー量が低いので大量に摂取しなければならず、さらに、摩耗力が高いシリカが多く含まれているため、しっかりと咀嚼する必要があります。
しっかりと咀嚼するためには、咀嚼回数も増えるので、臼歯は激しくすり減ります。
そのため、歯根部には、歯を伸ばす細胞が存在していて、チンチラは生涯にわたって歯が伸び続ける、「常生歯」という構造をしています。
私たちが普段与えている牧草ですら、野生の子たちが食べている高地に生える草と比べて、「柔らかく」、しかも摩耗力の高いシリカの含有量も低いのですから、一生伸び続ける歯のことを考えたら、咀嚼回数を増やすためにも沢山牧草を食べてもらう必要があります。
よく、チモシー1番刈りが理想的といわれる理由の一つは、1番刈りは2番刈りに比べて硬い繊維が多く含まれ、「咀嚼回数」が多く必要だからです。
チンチラの年齢や、歯の健康状態などによって、理想的な牧草の種類は異なりますが、いかにして牧草を沢山食べてもらえるかが、チンチラの健康を保つための一番のカギです。
「げっ歯類とウサギの臨床歯科学」(David A.Crossley・奥田綾子 共著 / 株式会社ファームプレス発行 / 1999.7) |
チンチラの体のしくみの中で知ってほしい大切なこと
チンチラの歯は切歯も臼歯も全ての歯が一生伸び続ける常生歯です
先に、チンチラの歯のことについて触れたので、チンチラの歯の構造を説明したいと思います。
お手本にさせて頂いたのは、「げっ歯類とウサギの臨床歯科学」という獣医学書で、David A.Crossley氏と奥田綾子氏の共著で、1999年7月に株式会社ファームプレスより発行されました。
このイラストは、チンチラの側面像を描いたものです。
チンチラの歯には、切歯と臼歯があって、切歯は上下に2本ずつ、臼歯は上下左右に4本ずつ、全部で20本あって、20本とも全て生涯にわたって伸び続ける常生歯です。
切歯が1年間に伸びる長さは、5.5~6.5cm
とも、5~7.5cm ともいわれています。「カラーアトラス エキゾチックアニマルの診療指針」(霍野晋吉 著 / 株式会社インターズー発行 / 1998.12 ) | ||
「フェレット、ウサギ、齧歯類 -内科と外科の臨床-」(Elizabeth V.Hillyer・Katherine E.Quesenberry 編 長谷川篤彦・板垣慎一 監修 / 株式会社学窓社発行 / 1998.7) |
チンチラは、硬い繊維性の植物を切歯で噛みちぎって臼歯へ送り、臼歯を前後左右にすり合わせて繊維をすりつぶして食べています。
石臼で細かくすりつぶすようなイメージで、臼歯をすり合わせて咀嚼するので、臼歯は激しくすり減ります。
すり減った歯質を補うために、開放型の歯根の先っぽには歯を伸ばすための細胞が存在していて、生涯にわたって歯が伸び続けます。
生涯にわたって伸び続ける歯を摩耗するためには、しっかりと時間をかけ、何回も咀嚼して食べる必要がある繊維質の食餌を毎日沢山摂る必要があります。
私たちが普段与えている牧草でさえ、野生のチンチラが食べている植物と比べたら、やわらかくて摩耗力の高いシリカの含有量が低いわけですから、できることならやわらかい葉の部分よりも牧草の茎などの硬い部分の方が「咀嚼回数も多く必要」なので、好んで食べてくれる子でいてもらいたいです。
でも、繊維質が硬くなればなるほど、一般的には嗜好性が下がるといわれています。
「牧草を好きで食べてくれる」子でいてもらいつづけてもらうことが、チンチラの健康を守るために最も重要なことです。
チンチラは腸内細菌叢によって繊維を消化・発酵し栄養素を合成できる完全な草食動物です
チンチラの消化管と消化のしくみをイメージして描いてみました。
チンチラの消化管容積は大きく、肺や心臓のある胸腔よりも消化管のある腹腔のほうが顕著に大きな容積を占めています。
チンチラの主食である繊維は、小腸の後ろにある盲腸で腸内細菌叢によって消化・発酵が行われます。
ウサギやモルモットと同じ「後腸発酵動物」で、たんぱく源となるアミノ酸やビタミン類などの栄養が含まれる盲腸便を自らの体で合成し、一旦体外へ排泄した後にまた摂取する「食糞」という行動を行います。
私は、ティモの盲腸便を見たことがないので、いつ盲腸便を食べているんだろう?と思って調べてみたところ、チンチラが休息する時間帯の午前8時から午後2時くらいの間に盲腸便を排泄して、再摂取しているのだそうです。
「VEC14号特集 チンチラの疾病 / チンチラの消化器疾患」(田向健一 著 / 株式会社インターズー発行 / 2009 ) |
腸内細菌叢の構成は一定しておらず、時間や年齢、摂取した食物による影響を受け、腸内細菌叢のバランスを壊す原因のひとつとして「糖質」や「澱粉」が挙げられます。
過去のチンチラの飼育書や獣医学書の中で、「脂肪を消化する手助けをする胆のうがない」と書かれてきましたが、正しくは胆のうは存在し、最新の飼育書や獣医学書の中では「胆のうは存在する」と明記されています。
「カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編」(霍野晋吉・横須賀誠 著 / 株式会社緑書房発行 / 2012.7 ) | ||
「PERFECT PET OWNER’S GUIDES チンチラ 完全飼育」(鈴木理恵 著 田向健一 医療監修 / 株式会社誠文堂新光社発行 / 2017.1) |
だからといって脂肪の消化が得意ということではなくて、チンチラは完全な草食動物なので、脂肪の消化は苦手ということに変わりはありません。
このように、チンチラは主食の繊維からアミノ酸やビタミン類といった栄養素を摂取できる体のしくみをしていて、盲腸には繊維を消化・発酵してくれる腸内微生物が沢山存在しています。
完全な草食動物であるチンチラにとって、飼料中の繊維は消化性繊維と不消化性繊維に分かれ、栄養の豊富な盲腸便となるのは消化性繊維ですが、不消化性繊維にも欠かせない役割があって、それは胃腸の蠕動運動を活発にすることです。
胃腸の蠕動運動が活発に行われることによって、不消化性繊維(大きな繊維性粒子)は体内に入り込んだ毛や砂などの異物と一緒にコロコロとしたうんちとなって滞りなく排泄されます。
チンチラは繊維質を原料に必要な栄養素を自らの体内でつくりだすことができる体のしくみをしています。
チンチラの消化管のしくみを一つ例に挙げても、いかに牧草を沢山食べることが大切かわかります。
チンチラは嘔吐することができません
チンチラの胃は、鉤のように曲がった形をしていて、食道から胃へとつながる胃の入口にあたる「噴門」と十二指腸へと続く胃の出口にあたる「幽門」が近接していて、なおかつ細くて狭いため、嘔吐することができません。
人間のように、何か消化に悪いものを食べてしまっても吐き出すこともできないし、猫のように飲みこんだ毛玉を吐き出すこともできません。
そのために、胃の内容物は前にも後ろにもいけずに、うっ滞を起こしやすいという特徴があります。
内容物を停滞させずに移動させる役割をしているのが、蠕動運動という収縮運動で、胃も腸も蠕動運動をすることで内容物を移動させています。
蠕動運動を刺激し、活発にする役割をしているのが、繊維質の中でも大きな繊維性粒子である低消化性繊維です。
「カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編」(霍野晋吉・横須賀誠 著 / 株式会社緑書房発行 / 2012.7 ) | ||
「VEC14号特集 チンチラの疾病 / チンチラの消化器疾患」(田向健一 著 / 株式会社インターズー発行 / 2009 ) |
おやつを常習化することで起こるリスク
先にまとめたように、チンチラの健康の保つために、繊維質が豊富な牧草をバランスよく葉の部分も茎の部分も沢山食べてもらうことが重要です。
けれど、常日頃からおやつを与えているとどのようなことが起こるでしょうか?
おやつが「癖」になり「中毒化」する
美味しいおやつの味を覚えると、美味しいおやつの味が忘れられなくなり、「癖」「中毒」という問題が起こります。
特に、幼いうちから美味しいおやつの味を覚えてしまうと、食事を選り好みするようになります。
美味しい味を求めて、どんどんとエスカレートしていき、甘いものばかりを好むようになります。
おやつを日々与える習慣がついてしまうと、牧草を食べずにおやつをくれるまで待つようになります。
草食動物であるチンチラにとって、牧草の自由給餌はとっても大切なことですが、自らの意志で食べてくれなくなってしまうと、どうしようもありません。
絶食の時間帯が続いてしまうというのはチンチラにとって大変危険なことです。
主食である牧草を好きでいられなくなる
牧草に含まれる繊維質には、消化されるものとされないものがあって、どちらもチンチラの健康のために重要な役割を担っています。
高消化性繊維は、盲腸で腸内細菌叢によって消化、発酵され、エネルギーとなって吸収され、さらにアミノ酸やビタミンBなどがたっぷりと入った盲腸便になって排泄され、再び摂取されることで栄養として吸収されます。
低消化性繊維は、胃腸の蠕動運動を刺激し、また切歯で切り裂き、臼歯でしっかりと咀嚼してすりつぶすことで歯が伸びすぎたり、不正咬合になるのを防いでくれています。
チンチラの健康を守るために、牧草の葉も茎もどちらも好きでいっぱい食べてくれる子でいてもらい続けることが何より大切なことです。
甘く美味しいおやつの味を覚えてしまうと、普段食べている牧草がいかにそっけない味かということを知ってしまうことになります。
主食である牧草を「美味しい」と思えなくなるというのは、とっても辛く悲しいことです。
私も、毎日食べているお茶椀にもられた炊き立てのごはんをみて、がっかりしながら食べなければならなくなっちゃったら辛いです。
腸内細菌叢のバランスを崩し、悪玉菌が増殖しやすい環境をつくってしまう
チンチラは「糖類」や「デンプン」の消化が苦手です。
ブドウ糖は悪玉菌増殖の生成源となり、特にクロストリジウム菌という悪玉菌は毒素をつくるので、毒素が全身にまわると急死してしまいます。
デンプンもグルコースに分解され、最終的にはいわゆるブドウ糖になり、腸内細菌叢を崩す原因となります。
甘く美味しいおやつを常習的に与えるということは、腸内細菌叢を崩し、悪玉菌が増殖しやすい環境づくりに協力しているのと同じことです。
「ラビットフードについて」の飼い主さんセミナー(霍野晋吉 講師 / エキゾチックインフォメーションセンター 主催 / 2016.6 ) |
おやつの本来の役割
おやつの役割は、以下の3つに留めておくべきだと思っています。
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食欲がないときに食欲を引き出す |
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投薬のために利用する |
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ご褒美として |
特に病気の治療として薬を飲ませないといけないときに、薬が「美味しい」と思ってもらえるように混ぜ合わせるなどの手段をとることができます。
元気がないときに、「美味しい」と思うものを与えることで、食欲を引き出すきっかけになってくれることがあります。
病院に連れて行ったり、何か我慢させないといけなかったことがあったり、特別なときに「よく頑張ったね」というご褒美として与えるなら、最も喜んでもらえるご褒美になると思います。
どの役割にも共通しているのは「特別なとき」ということです。
まとめ
野生のチンチラの故郷、チンチラが本来食べていたもの、チンチラの体のしくみにスポットをあてて、おやつを常習化することのリスクについてお話しました。
どの内容も最終的に、主食である繊維質を沢山摂取することの大切さにつながります。さらに、繊維質なら何でもいいのではなくて、高消化性繊維と低消化性繊維とどちらも大切な役割をしてくれているということです。
もし、「牧草を食べなくなってきちゃったな・・」と思い当たることがあったら、その原因はおやつを常習化してしまっているからかもしれません。
常日頃のコミュニケーションをとるためのツールなら、ペレットをおすすめします
「いつもおやつを与えてコミュニケーションをとっていたのに、これからどうしよう・・」と戸惑ってしまう方も多いと思いますが、コミュニケーションをとるためのツールだったら、私はペレットを手で与えてコミュニケーションをとる方法をおすすめします。
ペレットの与えすぎはよくありませんが、毎日必ず食べるものなので、「どうして今日はくれないんだ!」というストレスを与えずに済みます。
私は、ティモに与えるペレットは全て手で与えているので、ケージの中にペレット容器はありませんが、いつもペレットはケージの中の容器に入れているのなら、量を減らして、減らした分の量を手で与えてみるという方法もよいんじゃないかなと思います。
私が昨年参加した、EIC主催の「ラビットフードについて」の飼い主さんセミナーの中で、講師の霍野晋吉先生から、
飼育指導というのは一通りではなくて、色んなパターンがあり、みんなそれぞれ違います。例えば、歯が悪い子だったら、牧草は無理だから野菜とペレットにしようとか、工夫します。
というお話がありました。
まず、チンチラの故郷のことやどんな食事をしてきた動物なのか、体のしくみを知ることが最初の一歩だと思います。
COMMENTS & TRACKBACKS
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はじめてお邪魔させていただきました。
私も去年、ロイヤルさんから2匹の兄弟を迎えてモフモフに癒される毎日です。
実は片方が鼓腸症で10日入院して、帰ってきたばかりなんです。 まだまだ上がってこない食欲を上げる方法を探していてこちらにたどり着きました。 このオヤツの記事を読ませていただいて猛省しました。 決して【お腹いっぱいの美味しいものが幸せ】ではないですよね。 今回の事もきっと私の至らなさが原因なんだと思いました。
私自身も障害があり、不自由ですがチビ達は元気でいて欲しいので毎日お世話頑張ってます。
チンチラを飼っている方との交流もないので、いつもロイヤルの店長さんにアドバイスを頂いています。
また迷う事があったら、参考にさせてもらいたいと思います。
ありがとうございました。
たれたれさま
メッセージをありがとうございます。
たれたれさまは2匹の兄弟をお迎えされているのですね。
かわいい子たちなんだろうな~。。
入院されていたとのことで、無事に退院できてよかったですね。
きっと入院している間、「早くお家に帰りたいよぅ」と思いながら頑張ってくれていたと思うので、
本調子になるにはもうしばらく時間が必要なのかもしれないですが、
もりもり牧草を食べて、早く元気になってくれるとよいですね^^
私も、たれたれさまが参考にしてくれていることを励みに、これからも頑張りたいと思います。
こちらこそ、ありがとうございました。